大人のラブストーリーを描く漫画家・イラストレーターとして、唯一無二の作品を制作するわたせせいぞう氏。サラリーマンと漫画家、二足のわらじを履きながらスタートした画業が2024年で50周年を迎えられた今、漫画家・イラストレーターとしてのこれまでとこれからについてお話を伺いました。
実はポーチュガルの瓶が好きで、事務所の化粧室に30年間置いています。この瓶のデザインが好きなんです。だから、まずはポーチュガルの瓶を描けるということがうれしかったですね。ストーリーは、瓶がモチベーションになって作り出してくれました。
この作品のストーリーは、すぐに浮かびましたね。瓶のせいです(笑)。
ポーチュガルの瓶の形や歴史を感じるデザイン、色合いがストーリーを導いてくれました。風景にはイタリアの景色を選びました。イタリアの街並みや民族が好きなんです。
一番時間がかかるのは「何を描くか」ですね。あれでもないこれでもないと悩みながら、A案、B案、C案と試行錯誤を繰り返していくんです。案が決まったら、今度は素材を集めます。こういう風景がいいかな、車はどれがいいかな、とじっくり考えます。制作工程全体で考えると、半分は考える時間にあてていますね。
30年くらい前からですかね。『ハートカクテル』を描き始めたときからずっと同じスタイルです。僕の場合は、アナログとデジタルを融合させながら作品を仕上げています。ただ、常に少しずつ新しいことにチャレンジしていて、漫画でも一コマ一コマが単独でイラストレーションになるよう考えるなど、マンネリ化しない作品づくりを心がけています。
もともと小さい頃から絵が大好きで、学生時代には文化祭の絵や舞台で使用する絵を描いていました。高校生になると文章が好きになり小説家を目指しましたが、大学卒業後はご縁があり保険会社に就職しました。それでも、小説家になることを諦められなかった自分がいて...ひょんなことから直木賞作家の永井路子さんに15分だけお会いできることになり、「何か見せないと…」と考えた末、小説ではなく猫を擬人化した漫画を描いてお見せしたんです。すると、永井さんに「あなたは漫画家になりたいんだ?」と言われ、思わず「はい。」と返事をしてしまったことが、漫画家・イラストレーターとしてのスタートでした。
その後、永井さんが出版社を紹介してくださり、編集者の方とお会いすることになって。そこから、編集者の方が漫画家の園山俊二さんを紹介してくださり、5回ほどご自宅へ伺い、漫画のイロハを教えていただきました。漫画を描きながら電話をとるほどお忙しくされていた園山さんの姿が、今でも記憶に残っています。最後に、園山さんから「わたせくんは今、昆虫とか猫の擬人化のギャクを描いているけど、男と女を描きなさい。」と言われました。なぜそのようにおっしゃったのかは今でも分からないのですが、園山さんのこの一言がきっかけで今の作風になりました。
40歳のとき、サラリーマンとして働いていた保険会社で企画部への辞令をもらったタイミングで、漫画家・イラストレーターとして生きていくことを決断しました。当時は営業の仕事をしており、保険会社での仕事も好きだったのでとても悩みましたね。駆け出しの頃、永井さんからは「サラリーマンの年収の6倍稼げるようになったらやめ時」と言われていましたし…。実際、6倍の稼ぎにはなっていなかったのですが、最後は家族の後押しがあり、独立に踏み切りました。
そうですね。あとは、未来の自分からの後押しもありました。辞令をもらったとき、当時40歳の僕は、45歳の自分と50歳の自分を想像したんです。すると、その2人が悩んでいる僕に「なぜあのとき、会社を辞めて漫画家にならなかったの?後悔するよ。」と言っているような気がして。家族の後押しもありましたし、この一言が決め手でマイナスな未来は考えず、前だけ向いていましたね。
これも園山さんから言われたのですが、「いつまでも暗中模索だよ。」という言葉を今でも大切にしています。当時はピンときていませんでしたが、今はとても納得しています。晴天の下を歩いているだけではダメだと思っているので、常にチャレンジしていきたいです。あとは、「常に日々、新たに。」ということも意識していますね。毎日朝起きたら、昨日よりも今日、今日よりも明日と、常に新しいことに取り組み、暗中模索する毎日です。
「新しいことにチャレンジする」という考え方は、サラリーマン時代から持っていましたね。今でもモチベーションが下がることはほとんどありません。とにかく、マイナスなことは考えずに、次のことや未来のことを考えています。サラリーマン時代、保険会社だったので短期計画と長期計画を立てる癖がついており、それが未来に目を向けるという考え方に活きているのかもしれません。
そうですね。あとは、絵を描くことを純粋に楽しんでいます。サラリーマン時代は月曜から金曜まで会社で仕事をして、土日で絵を描くという生活をしていたので、毎日絵を描けたらどんなにいいんだろう…と思っていました。今では毎日絵を描けるので、それ自体が大きなモチベーションになっています。
中国の色彩を使って、絵を描きたいと考えています。僕は色彩の旅をしていて、ウエストコーストから始まり、ヨーロッパ、日本ときて、一番描いていないのが中国なんです。中国の色は独特でさまざまな難しさもあるのですが、大人向けの男女のストーリーを中国の色でチャレンジしてみたいですね。もう一つは、ミュージカル作品のストーリーを作ってみたいです。舞台監督として、ミュージカルの美術をやったことがあったり、普段ミュージカルを観に行ったりもするので、実現できたらうれしいですね。